私はカバになりたい

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最貧困女子

目的意識

 最貧困女子の実態の把握。

内容の概略

 最貧困女子とよばれる、年収114万円以下でなおかつ親族、制度、地域から切り離された少女の実態を表現したルポルタージュである。その中で、最貧困女子と売春ネットワークなどとの深い関係を明らかにしている。

 本書では、プア充などと呼称される同じく年収が114万円以下の女性と最貧困女子との違いを表し、最貧困女子が抱えている問題を露わにしている。また、なぜ彼女らが貧困に落ちることになったその原因を彼女らの生い立ちからそれを調査し、同様の被害者が生まれないようにするにはどのようにすればよいかを提言する。その対策とは、小学生時代のシェルターハウスなどの居場所のケアをし、売春の連鎖を防ぎ、セックスワーカー(風俗従事者や売春)の立場を強化である。しかしながら、本文中でも注意書きがあるように、本書の著者はあくまでルポライターにすぎない。本格的な制度は専門家に委ねるとし、本書の目的は最貧困女子の可視化であることを強調していた。

著者の主張

 近年、報道で頻繁に取り上げられているように、格差が広がっている。しかしながら、その格差の下層に所属している最貧困女子に対して世間は無理解である。著者の目的は、この最貧困女子の可視化である。

 最貧困女子が世間から注目されていないのは彼女らが基本的に一見すると貧困層であることがわかりにくいことが原因である。それと同時に、彼女らには総じて教育水準が低く、幼少期にいわゆる非行少年少女であることも多いため、生活保護などの行政に頼るということをしない。特に顕著な例としては、闇金業者から借金をする際の契約書を書く行為するら困難な女性もいる(幸いにもそれが原因で、彼女は借金が殆どなかった)。また、彼女ら最貧困女子はセックスワーカーになることが多く、世間一般では風俗産業は儲けられるイメージがあるため、貧困層に所属していることが発覚しづらい。実際に稼ぐことができるものもいるが、それは、メンタルが安定しており、容姿に優れているものである。最貧困女子はメンタルが安定しておらず(精神科へ通院している割合も高い)、容姿も優れていない(俗に言うデブス)。

 では、なぜこのような最貧困女子が生まれたのだろうか? その原因の多くは教育水準の低さ、親による虐待、親世代の貧困が大きく関わっている。実際に本書で出てきたケースでは、裕福な家庭に育ったものは誰一人いなかった。マイルドヤンキーなどと呼称されるものは、同じく年収が114万円未満の世帯ではあるが、彼女らは世間体との関係を持続し、その共同体との相互扶助を行うことで生活水準向上させている。孤立している最貧困女子とはこの点で大きく異なり、「貧乏(単純に所得が低い状態)」と「貧困(所得が低く、孤立しており、精神的にも不安定な状態)」の違いを表している。

 最貧困女子を救うにはどのようにしすればよいのであろうか? 具体的な制度などは専門家に譲るとし、本書では彼女らのセックスワーカとしての現状を分類、可視化することで現状を把握することを目的とする。具体的には、サバイブ系(金生活のために銭が即座に必要な状態)、ワーク系(セックスワーカに職業意識を持っているもの)、財布系(それほど金銭には困っていないが、遊び金がほしいもの)の3つに分類し、その度合について11のパターンに分けた。このパターンごとにそれぞれに適切な対処を行うことで最貧困女子を救うことができるのではないかというのが、本著の論証である。

まとめ

 最貧困女子というか、貧困層に所属するセックスワーカーの本としては、以前に「彼女たちの売春(荻上 チキ)」を読んだきりで、これが2冊め。似たようなテーマであるのでしょうがないのではあるが、重複した構成が多々あった。特にセックスワーカーたちの過去は似たようなものがチラホラ。それほどまでに彼女らの過去が似ているという証拠でもあるのでしょうがないのか。

 本書の目的としては、最貧困女子の可視化だと思う。それにはある程度成功している。ただ、著者自身も指摘しているが、母数が少ない。その為、定量的な評価ができず、結局のところ、「こんなに可愛そうな人がいるんだね」程度で終わってしまう。事例数が少ないため、「貧困が連鎖している」と言われても心情的には納得できるが、腹落ちはしない。そこら辺が甘いので、ルポタージュとしては、「彼女たちの売春」のほうが上だと思う(これは著者が全国津々浦々の出会い系カフェに出向き調査をしているので、非常に腹落ちする。母数もかなり多かった)。

 とはいえ、単純に読み物としては、十分に面白かった。それぞれの最貧困女子やマイルドヤンキーと呼ばれる所得は低いがQOL(quality of life)が高い方のインタビューもあり、同じ低収入の世帯でもかなりの違いがありお金のみでは人の幸せは測れないものだと痛感した。

最貧困女子 (幻冬舎新書)

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